ゼルダの伝説 ティアーズ・オブ・ザ・キングダム【クリアレビュー・評価・感想】

5.0
クリアレビュー ゼルダの伝説 ティアーズオブザキングダムレビュー

 発売からひと月が経ちメインシナリオをクリアすることができた。『ゼルダの伝説 ティアーズ・オブ・ザ・キングダム(以下『ティアキン』)』は、前作からさらに世界もクリエイティビティも拡張し、弱かったストーリーテリングを補強した傑作アドベンチャーだった。

 本作はクリアまで70時間以上の時間をかけたが、あくまで最初の1週を終えたに過ぎず、このゲームの中にはまだまだ未発見のコンテンツが残されているだろう。膨大なコンテンツ量ゆえ、レビューを書く上でさまざま見落としがあると予想される点をご容赦いただきたい。

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『ゼルダの伝説 ティアーズ・オブ・ザ・キングダム』の概要

 『ティアキン』は2023年5月12日に発売されたアクションアドベンチャーだ。前作『ゼルダの伝説 ブレス・オブ・ザ・ワイルド(2017 以下『ブレワイ』)』で災厄ガノンを打倒してから少し時が経った同じハイラルの世界。主人公リンクはゼルダ姫と共にハイラル城の地下を探索していたところあるものを目覚めさせてしまう。二人は離ればなれとなり、ハイラルの地に大きな異変が起こった。というところから冒険はスタートする。

 前作と違いリンクは記憶を失ってはいないし、冒険の舞台となるのは前作と同じハイラルの地だが、この冒頭の出来事でハイラル全土が大きく変化し、時間の経過と共に既知だった世界をふたたび未知のものに変わった。この出来事によって遺跡が落下してたり、天候や環境が変わって地形が変化したり、大まかな位置関係に変化はないものの、その様相は前作とは異なっている。直前に前作をプレイしていないのであれば、新鮮な気持ちで遊べるだろう。

前作の拡張と改善

自由度マシマシのクラフト要素

 本作は新アイテム「ウルトラハンド」「スクラビルド」「トーレルーフ」「モドレコ」によって、できることが無限の勢いで増えた。とくに「ウルトラハンド」と各種素材の組み合わせはプレイ前の想像以上に様々な組み合わせを許容してくれる。残念ながら脳筋プレイ中心の僕にはおもしろい活用法はなかなか考えつかなかったが、SNSで拡散される様々なプレイヤーの発想力を見ているだけでも楽しく、一通りプレイが終わった今でもついつい動画を見てしまうし、見た組み合わせを自分でも試してみたくなる魅力を持っている。

孤独な旅から仲間との共闘へ

 前作はゲーム開始時点からゲームクリアまで孤独の旅だった。主人公リンクは冒険の中で出会った人々とシナリオ上は一応仲間になるし、部分的に協力するシーンもあるが、基本的にリンクと敵は一対多の構造で数の暴力を受けがちだった。前作からクラフト前提の難易度調整からか、敵の攻撃力はシリーズと比較しても強力になっており、戦闘によるゲームオーバーの頻度は増えた印象だ。

 今作はある条件をクリアすることで共闘する仲間ができる。彼らは積極的に敵を倒してくれるわけではないが、うまく急所を突いた攻撃をしてくれたり、前作でいうところの「ウルボザの怒り」のように固有の協力スキルでリンクの攻撃を強化してくれたりする。ある理由により彼らは喋ることはないが、敵の拠点に攻め込む際には心づよい味方になってくれた。

素材アイテムは潤沢に手に入る

 素材の有用性が増した本作。本作はアイテム「スクラビルド」によって武器や矢に素材を取り付けることで攻撃力を上げたり、特殊効果を付与できる。そのため、前作では不足しがちで購入するか地道に集めるしかなかった矢だが、矢を集めるための作業は必要ないほどに各地に配置され拾えるようになった。これは地下探索の照明アイテムも同様で、使用頻度の高い消費アイテムに関してはあまり意識しなくても潤沢な量が手に入るようになっている。意図的に集める必要があるのはイベントで求められるアイテムに限られている。

過去の回想を交えながら未来へ進む話

 前作は長き回生から目覚め記憶を失ったリンクが、記憶の断片を埋めながら最終目的地ハイラル城を目指す物語だった。基本的にイベントは過去の回想が中心で、物語序盤で最終目的地が示されているも同然なので、イベントをこなし記憶をすべて補完したとしても変化するのは攻略の難易度であって、最終的な目標に変わりはなく、ストーリーテリングは弱い印象だった。

 一方本作は過去の出来事と現在の出来事の2軸でストーリーが語られる。前作のように最終目的がはじめから示されているわけではなく、冒頭より示されるいくつかの謎をメインチャレンジの進行で追っていきながら、手がかりをもとに最終的な目的地を割り出していく現在の層と、かつてハイラルで起こった出来事を知る過去の層とが次第にリンクしていく2層構造になっている。

 メインチャレンジはクリアに必須ではないようで、最初からあまり寄り道せず最短を走ってもある程度はストーリーを把握できるようになっている。しかし、これから始めるならできればメインチャレンジは一通りクリアしてからラスボス戦に挑むことをオススメする。一部イベントをクリアしないと展開に理解ができないからだ。本作のストーリーは素晴らしい。

生きた世界から動く世界へ

 本作は冒頭のチュートリアルパートが終了すると、「監視砦」と呼ばれる場所に行くことになる。ここでは「メインシナリオの進行の中心」「装備や消耗品の補充や回復など旅支度拠点」と前作では世界全体に散っていた機能が集約されており、ゲームプレイの中心地として設定されている(地図上でもハイラルの中心に位置することから明らかだ)。この監視砦と各地の行き来することになるが、利用は基本自由なのでシナリオ進行の度に拠点に強制移動させられることはなく、自由なプレイへの配慮がみられる。

 そしてこの拠点には前作にはなかったメインシナリオの進行度に応じて、各地から人が集まり砦の状況が変化していく要素が追加され、1日周期ではない作品世界の時間がちゃんと流れていること感じられる。その他、前作は各地のイベントがそれぞれ独立しており、その間をリンクが旅がらすのように行ったり来たりする構造だったが、本作はある町のイベントをクリアするとその関連のキャラクターが別の町に移動していなくなるといった、より有機的に変化する世界になった。いなくなったキャラクターはちゃんと事前の会話で触れていた地域にいる点もぬかりない。

欠点はないわけではない

暗く単調な地底世界

 僕が『ブレワイ』で最も魅力に感じていたことは、「好奇心への報い」が用意されていることだった。何か気になるものを見つけ、そこへ向かえばアイテムやイベントや謎解きが何かしら用意されており、見回せばまた新しい何かを見つけることができる、この連続が楽しかった。

 ところがこの要素が地底世界では希薄だ。広くはあるがそもそも暗い地底世界は僕が興味をひかれるものはほとんど見えないし、存在もしない。地上に比べて越えられない絶壁も多く、壁沿いに回り込んだ結果「行き止まり」となっていることがあるなどストレスが多いポイントだった。

 関心の持てない世界を暗闇を照らすアイテムを投げながら回るのは、好奇心のままに歩き回れた地上世界に比べて面白い体験とは言えなかった。

意外と少ない空の世界

 パッケージやPVでのアピールから本作の主戦場は空になると思っていたがどうやら違った。全体のプレイは前作と同じでほとんど地上か前述の地底で、一番プレイ時間が少なかったのが空だった。

 規模としては最初の空島がもっとも広く、それ以外の空域は一部を除けば小規模の空島郡が点在しているばかりで遊べる場所がそもそも少ない。空からのダイブやゾナウギアでの空の移動は楽しいが、移動の目的地にできる空島が少ないため、期待との落差もありあくまで前作の空の延長という印象に収まってしまった。地上から空を見上げた時に島ばかり見えると見栄えは悪いかもしれないが、もう少し量があってもよかったと思う。

パラセールが見つからない

 ゼルダの魅力を底支えする滑空アイテム「パラセール」。前作はチュートリアル終了時点で強制的にゲットしたが、本作ではチュートリアル終了後ハイラルの大地に降り自由行動が解放された後、少しだけメインチャレンジを進める必要がある。

 大抵の人はメインチャレンジに進むのだろうが、僕は気の赴くままに自由行動を始めたためパラセールの取得がだいぶ遅れた。このゲームにおいてパラセールは移動だけでなく落下死を防ぐアイテムとして重要で、ないと相当に難易度が上がるし、祠の謎解きが不可能になる(工夫次第で解けるのかもしれないが)。パラセールを持たない自由すら認めるのは感服する他ないが、せめてメインチャレンジを進めれば取得できることはハイラルの地に降りた時点で知らせておいてほしかった。

祝福系の祠の続投

 自分の好みの話にはなるが、本作も「ほこらチャレンジ」が存在する。通常は祠内で謎解きをしてそのリワードにアイテムをゲットするが、一部の祠は「ほこらチャレンジ」としてフィールド上で謎解きをすると祠(「ラウルの祝福」の名称)を発見できるというもの。祠の中はアイテムをゲットするだけで謎解きはないため、謎解きが好きな僕はがっかりしてしまう。祠によっては謎解きをしなくても偶然発見できることがあり、見つけた祠が「祝福」だった時はがっかりする。評価を下げるほどではないが、改善してほしかった点だ。

総括

 気になるところはあるにはあるが、それ以上にプレイヤーの創造力を掻き立てるゲームデザインと進化ストーリーを前には些細なものだ。本作は言うまでもなく前作の期待を超えたスイッチを持っているのなら買うべき傑作であることは間違いない。もし前作のプレイ経験がなくても本作からプレイして問題はないが、個人的には本作は前作の拡張版とも言える規模の作品に仕上がっているため、両方をプレイするつもりがあるのなら、前作から始めることをオススメする!

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