『ライフ イズ ストレンジ ビフォア ザ ストーム』クリアレビュー【感想・評価】※前作ネタバレあり

3.5
レビュー

 本レビューでは前作『ライフイズストレンジ(2016)』のネタバレを含む。もし前作の内容を知らず本作に興味があるのなら、必ず前作を遊んでからプレイすることをオススメする。

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概要

前日譚スピンオフ

 2016年に発売された『ライフイズストレンジ』は、時を巻き戻す力を持った主人公が親友の危機を救うべくタイムトラベルを繰り返すポイントクリック型のアドベンチャーゲームだった。その前日譚にあたる『ライフイズストレンジ ビフォアザストーム』は、前作での相棒兼ヒロインだったクロエを主人公に据えたスピンオフタイトル。同じオレゴン州の田舎町アルカディアベイを舞台とした本作は、新システムや新キャラクターを前面に押し出す派手さはなく、ボリューム抑えめで短編作としての側面が強いシンプルなアドベンチャーゲームだ。

あらすじ

 前作の3年前、親友マックス(前作主人公)がシアトルへ引っ越し疎遠となった少女クロエは、父親の死を引きずりすっかり不良となってしまった。夜中廃工場で催されるロックバンドのライブにこっそり専有したクロエは、そこで同じブラックウェル高校の生徒の優等生レイチェルと出会い親交を深めていく。『ライフイズストレンジ』においてレイチェルは所謂マクガフィンであり、行方不明となった彼女の捜索がメインプロットのひとつだった。物語のキーパーソンとして存在しながら、彼女の詳細は多く語られなかったことから、レイチェルがどのような人物だったか気になる人は多かったと思うが、本作ではふたりの関係がフォーカスされることになる。

特徴

 前作との最大の違いはクロエは何の異能の力も持たない普通の少女というところだ。そのため前作での時を巻き戻して未来を変えるような攻略ギミックはなくなり、複数の時間軸を考慮する必要のないストレートな構造になった。時間を巻き戻せないこと以外、基本的な流れは前作同様で各シーンごとに主人公を操作しながら気になるものにインタラクションしモノローグを聞いてシナリオを進めていくことになる。前作で登場するキャラクターは少なめで、本筋に絡むのはオリジナルキャラクターが多くを占める。

よかった点

丁寧なローカライズと吹き替え

 本作の翻訳の出来は素晴らしいの一言だ。一部の英語ジョークは仕方ないとして、テキストでもボイスでも日本語として不自然な表現はまったくなく、キャラクターに合わせた違和感のない言い回しに調整されている。特に吹き替えのクオリテシィは、やや物足りないグラフィックや表情に乏しいアニメーションを補ってあまりある魅力をキャラクターにもたらしている。

 また、ゲーム中いつでも開ける日記は本作でも健在で、クロエの視点から見たエピソードの振り返りと人間関係を彼女自身の感情も交えて記録されており、アドベンチャーとして満点の出来だ(なかなか連絡を寄越さないマックスへの不満もそこかしこに漏れ出ていて面白い)。前作と比較すると全体的にコンパクトなボリュームの本作だが、テキスト量は読み応えがなほど少ないわけでも、ゲームの流れを止めるほど多いわけでもない量加減で、箸休めとしても読みやすい。

インタラクションの多さ

 本作も各シーンでインタラクションできるものが多く用意されている。必ずしも本筋と関係のあるものばかりではないが、それぞれ調べるごとにクロエのモノローグがボイスで挿入され、前述の良質なローカライズも相まって気持ちよくクロエとプレイヤーを同調させてくれる。本作は総当り型アドベンチャーでないため、最短を通ればすぐ次のシーンに進んでしまい戻ることはできないが(チャプター選択はある)、できるだけ各場面を隅々まで見て回りたくなるクオリティだ。また前作同様、プレイヤーのインタラクションと選択は集計されており、各チャプターで統計をチェックできる。

気になった点

早急な展開とレイチェルの描写不足

 前作は5エピソード構成でマックスとクロエの再会から友情を取り戻し事件を解決していく道のりが丁寧に描かれていたように思うが、本作は3エピソード(+ボーナスエピソード)構成でボリュームは多くない。クロエとレイチェルが出会い友情を深め、事件を解決するまでの工程は3エピソードではいささか早急と感じた。

 ふたりの関係の進展も同様だ。レイチェルはアカデミーで評判の人気者であるらしいことは示唆されるし、やや強引にクロエを振り回す性格は、たしかに人好きの魅力の一面であると言えなくもない。それでも「ライブハウスで偶然出会い楽しい夜を過ごした」というきっかけ以上に、「なぜ互いに惹かれあったのか」という大切なポイントが描かれないまま、レイチェルの家庭問題に物語の軸が移行する。

 結果、レイチェルというひとりの自立したキャラクターの描写よりも、前作同様ストーリーの推進役としての機能が目立ってしまっている。一緒にTRPGを遊んだステフやマイキーの方が僕にとって魅力的にすら見えてしまうのは残念だ。

成長しないクロエ

 期待外れだった部分もある。前日譚である本作には、ヤンチャな性分ではあるが良い子であったクロエが父親と親友の喪失を引きずり不良へと転落していく過程をどのように描くのかを期待していた。しかし、クロエは本作開始時点ですでに前作と同じ不良少女としてキャラクターが仕上がっており、本作を通じて彼女が成長変化したり(髪の色は変わるが)、前作にはなかった視点をプレイヤーに与えたりするような深掘り要素がなかったことだ。

 クロエは前作の彼女をそのまま本作に持ってきたような印象が変わらず、やたら落書きしたがるところも年齢に対して幼すぎているように感じる。

メカニクスが弱くなった

 いつでも時間の巻き戻しができることが前作最大の特徴だったが本作では超能力は登場しない。その代わり、会話の中で相手の言葉を巧く返して言いくるめる「バックトーク」がある。これはまさに「売り言葉に買い言葉」といったものでクロエの口達者なキャラクターをよく反映しているが、バックトーク自体は変速型の選択肢といったものでゲームの中核とはならず、それを自覚してか登場頻度自体多くない。攻略に際して頭を使う場面はほとんどないため、シンプルにシナリオを読み進める側面が強くなっている

 また、前作ではインタラクションで得た情報をプレイヤー自身がきちん理解していないと、あるキャラクターを助けられないアドベンチャーならではのシーンがあったが、このようなシーンは本作はなかった。

後味の悪い余計なラスト

 『ライフイズストレンジ』で迎える彼女たちの未来が常に脳裏をよぎり、プレイしていてとにかく気が重い本作。それ自体はエピソード0モノのある種の魅力とも言えるのでマイナス評価とはならないが、クリア後の後味の悪くするある演出ははっきり蛇足と感じた。

 本編でクロエとレイチェルが追ってきた事件が決着を迎え、ふたりがより親密になっていくダイジェストの後、前作と本作を繋ぐある場面を示唆するカットが不気味に挿入されたところで物語が終幕する。

 大抵のプレイヤーは前作をプレイしていると思うので意味不明なものではないし、繋ぎとして矛盾するわけでもないが、明るくエンディングを迎えた(迎えたい)作品の空気に水を指してしまっている。同様にボーナスエピソードもラストにクロエが絶望的状況に追い込まれるところで終わってしまうため、あまりに救いがない後味の悪さだけが残ってしまった。これがホラーシリーズならよかったが、青春モノとしてふさわしいとは思えなかった。

まとめ

おもしろくはあるけれど

 本作は残念ながらスピンオフタイトルとして『ライフイズストレンジ』の世界を拡張することはできていない。前作を遊びクロエが好きなプレイヤーなら、彼女とレイチェルにまつわるストーリーは決してつまらなくはないし、クロエ推しであるなら生きているクロエとより長く過ごせるという点で何よりプレイする価値がある。しかしプレイの先には絶望的未来(つまり前作)が待っていることがわかっているので、おすすめしたい気持ちと苦しい気持ちが拮抗する悲しい一作だ。

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