インディーゲームならではのアドベンチャー
はじめに
『チコリー 色とりどりの物語』はその見た目の通り愛らしくユーモラスでやさしい世界だ。本作が描くメンタルに関するテーマは現実的でストレートに表現されているので、ゲームにメッセージ性を求めない人には不向きな作風かもしれない。
しかし、本作のテーマである「落ち込んだメンタルへの向き合い方」は、現代社会に生きる多くの人にとって普遍的で共感できるテーマだろう。主人公とチコリーがその短い旅の中で、テーマに対する答えを誠実に示してくれた。僕にとって本作は2023年の傑作タイトルとなった。本作はNintendo Switch、PS5、PS4でも発売予定だ。
色を取りもどす物語
世界が突然色を失ってしまった。現役の「絵ふでつかい」チコリーが住む塔の掃除係である主人公は、絵ふでつかいにとって大切な仕事道具「まほうの絵ふで」が不自然に放置されていることに気づく。チコリーの部屋のドアを叩くも返事はなく、訝しみながらも絵ふでつかいに強いあこがれと尊敬の念を持つ主人公は、絵ふでを持ち出してしまう。
「絵ふでつかい」とは作品世界の中でのスターのような立場で、世界に唯一色をもたらすことのできるアーティストだ。師匠から弟子へ代々「まほうの絵ふで」を受け継ぎ、世界を美しく彩る大切な役目を負っている。世界から色がなくなり驚いたのもつかの間、憧れの絵ふでを手に入れウキウキの主人公。失われた世界の色はどうするのか、色と引き換えに現れた不気味な黒い木は何なのか、なぜ色使いの筆が放置されていたのか、チコリーはどうしてしまったのかが物語のスタートとなる。
やさしい2Dゼルダライク
ゲームは全体を通して2D版ゼルダのようなトップダウン視点で進行、モノクロとなったフィールドに絵ふでを使って色を塗り謎を解く。色を塗ることで成長したりしぼんだりする草花を足場にするなど、色塗りによってリアクションが返るオブジェクトが様々存在し、実際に触りながらギミックを理解して目的地を目指していく。ゲームを進行すれば新たなスキルを獲得でき、『スプラトゥーン』のように着色した壁を登ったり、地面に潜れるようになり行動範囲を開拓して新たなエリアに行くことができる。
序盤から開けたエリアを好きに移動できるスタイルではあるが、メインストーリーを進めるだけならメトロイドヴァニアのように同じところを行ったり来たりする必要はなく、どこへ行けばよいかは明確に指示があるので迷うこともない。迷ってしまった時は公衆電話から両親に電話することで、抽象的なヒントと望めば具体的なヒントを得ることも可能だ。
たのしいがむずかしい色塗り
本作最大のメカニクスはまほうの絵ふでによる色塗りだ。絵ふでは右スティックで移動し右トリガーで操作できる(Xbox版の場合)。画面に映るフィールドとキャラクターの全てに色を塗ることができ、原則使用タイミングに制限はなく、一部イベント中を除けば移動や会話中でも色を塗ることができる。色は上書きしないかぎり残り続けるので、探索済みのところをチェックしたり、簡易なメモ代わりに使うことも可能だ(そもそもメモが必要な場面は少ないが)。
色塗りの他に絵描きを求められる場面も一部ある。お絵かきツールが充実しているわけではないので、PC版などマウス操作であっても精細な絵を描くことは難しく、抽象画のような出来になる。描いた絵にキャラクターが芸術的目線からコメントしてくれることがあるが、どのような出来であっても好意的に解釈してくれるので複雑な気持ちになる。
コンバット要素は各チャプターごとのボス戦を除き存在しない。ボスは特定のタイミングに絵ふでで弱点を色塗ることでダメージを与えられる。接触することでダメージを受けたような演出は入るが、体力の概念はなく何度攻撃を受けてもゲームオーバーにはならないアドベンチャー寄りの仕様である一方、左スティックでボスの攻撃を避けながら右スティックでカーソルを移動する対象に合わせる必要がある。ダメージを受けないとはいえ、後半に進むに連れ攻撃は苛烈になり回避の何度も上昇する。弱点を突くのも頭を捻る場面もありなかなかテクニックを要するものでゲーム慣れしてないと難しいかもしれない。
ビジュアル
本作のビジュアルはまさに買ったばかりの塗り絵本のような見た目で、自由に色を塗ることができる。輪郭がはっきりした曲線的線づかいが印象的で、絵ふでを使えばキャラクターやオブジェクトは部位ごとに一気に塗りつぶせる。配色は自動で選ばれたカラーパレット(4色)から選択するので完全な自由さはないが、適当に色塗りしてもそれなりに”映える”画面になり、破滅的な色合いにはならない点で安心だ。
ゲーム中各所に「おめかし」用のコスチュームアイテムが散らばっており、少し寄り道にそれたり難しめの謎解きを解いたりするご褒美としてゲットできる。頭と胴体の2カテゴリだけだが、数はそれなりに多く、これらはいつでも着せ替えることができ、可愛らしいビジュアルとのマッチングが最高だ。どれを着せても可愛くおさまってくれる。
ビジュアルは強いアイデンティティとなっているが、平面的デザインかつモノクロであるためにキャラクターやオブジェクトがフィールドに埋没し見落としが起きやすい。メインストーリーの中で探す要素は少なく大きな問題にはならなかったが、一部の謎解きに関しては高低の概念が判別しづらいことで攻略ルートが分かりづらい場面があった。
謎解きの難易度
謎解きは全体を通してクリアさせることを前提としたやや簡単なレベルと感じた。一部難しいのは前述のとおり高低表現が分かりづらいため、一見して仕掛けが分かりづらい箇所が少数ある程度で、全体を通してやさしめだ。
問題があるとすれば、一部の謎解きやボス戦はキャラクターの移動(左スティック)と絵ふでの操作と塗り(左スティックと右トリガー)を同時に求められることがある。移動しながら、筆カーソルを動かしタイミングを測って色を塗る場面があり、謎解き自体の難度よりも操作難度が高さが気になった。
やさしい世界
本作は全体を通して、メンタルヘルスという非常にデリケートな題材に対して僕らはどう向き合って行けばよいのか、やさしいメッセージを一貫して伝えてくる。全体を通しても会話シーンはそこまで多くなく説教臭さを感じることもない。クリアまでの時間も短いので、是非プレイをしてその答えを確かめてほしい。