『ドルドーニュ(Dordogne)』クリアレビュー【感想・評価】

3.5
ドルドーニュ画像レビュー
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はじめに

 「こども時代に田舎で過ごしたひと夏」という点をみれば『ドルドーニュ』がフランス版『ぼくのなつやすみ』と見られても仕方がないが、本作の主役は「ぼく君」ではなく「ミミ」という独立したキャラクターだ。水彩画タッチの美しく、にこども時代を重ね、ノスタルジーな気持ちを重ねられる部分もあるが、基本的にはミミの私的なストーリーを読んでいく体験になる。2023年8月現在Xbox Game Passにて配信中だ。

 そのビジュアルに一目惚れをしたのなら是非プレイをオススメしたい一作ではあるものの、ローカライズには難がありその魅力を削いでしまっている。

『ドルドーニュ(Dordogne)』はこんなゲーム

私的ものがたりと美しいビジュアル

 祖母ノーラが亡くなった。離れて暮らす失業中の主人公ミミは、ドルドーニュ県にある祖母の家がもうすぐ引き払われてしまうこと、その家に自分宛てに残してくれた「箱」があることを知り、今は空き家となった祖母の家に向かう。久しぶりに訪ねた家でミミは、ドルドーニュで祖母とふたり過ごした幼いひと夏の記憶を思い出していく。

 本作の最大の特徴は水彩画タッチのビジュアルだろう。ミミが過ごす子供時代のドルドーニュのビビッドな色彩は特に印象的だ(一方大人時代は褪せた色彩で描かれる)。スクリーンショットでは一見すると一枚絵のように見え、キャラクターの操作感も2Dアドベンチャーのそれだが、実際は3D空間に水彩画テクスチャを複数レイヤーで配しており、カメラが動くと飛び出す絵本のような独特の遠近感が感じられる。登場ロケーションは多くはないが、全体的に同様の美しさで統一されており、中でもカヌーで川を下るシーンは素晴らしいの一言だった。

 キャラクターは3Dで作成されているが、これも平面的な世界に合わせるように陰影は抑えられ、表情(目や口)は顔の角度に合わせて位置やテクスチャを専用のものに変更していて、イラストアニメチックな印象になるよう徹底されている。

『ぼくなつ』とは違うゲーム

 ゲームパートとしては主人公ミミを操作し、祖母宅を中心に物語が展開する。『ぼくなつ』のように自由行動はできず、あくまでストーリーに沿う範囲で行動することになる。収集要素(後述)はあるものの、基本的には一本道でまっすぐエンディングへと進んでいき、途中で以前の場所へもどったりすることはできない。また、本作は攻略要素がなく、途中簡単なインタラクションを求められる場面はあるが、時間制限や失敗のないあくまで簡易シミュレーターのようなもので詰まったりすることはない。所謂サブクエスト要素も存在しないようだで、ひとつの物語を読み進めていく感覚だ。

 プレイ中はところどころに「ステッカー」詩に使う「言葉や感情」が拾え、一部のロケーションでは景色を写真で撮ったり、環境音をテープレコーダーで記録したり等、収集要素がある。収集は任意でクリアには関係せず、あつめたモノはチャプター終了時に思い出の記録としてバインダーに貼って自分の1ページを作ることができる。自由に組み合わせて自分だけのバインダーに仕上げたいところだが、各収集物は基本的にひとつずつしか貼ることができず、バリエーションの幅が狭いので独自性を高めづらいことが残念だ(詩だけはいくつかの表現バリエーションと組み合わせが選択できる)。

 さらに言えば、本作はミミの物語でありプレイヤーの物語ではない、バインダーづくりは楽しいしラストには普遍的メッセージが込められてはいるものの、バインダーにプレイヤーのオリジナリティを持たせるほど本作で語られるミミの私的な物語とは乖離してしまう気がした。

 主には「祖母の遺したもの」をメインに、「両親と祖母の不仲」「祖父母の生活」「子供の頃に出会った少年と祖父母の関係」「村の伝承”クーロブレ”」と複数のサブプロットがあるが、そのいずれもメインストーリーを追うだけでは全容はつかめない。おそらく読み落としがかなりあったのではと思うが、1回きりのプレイ体験としては詰め込みすぎのように感じた。クリアまでの最短距離を走らず、できるだけたくさんのオブジェクトにインタラクションすることがオススメだ。

無視できないローカライズの粗さ

 ローカライズコストの捻出が難しいインディーズタイトルに多くを求めることはできない。しかし本作のローカライズは不出来と言わざるを得ず、日本語ボイスに対応する気合いの入れようとは裏腹に、テキスト翻訳は直訳的で日本語では意味が通らない表現も散見され荒い。この粗さが本作の魅力を削いでしまっているのは本当に残念だ。

 テキストはゲーム中に作詞のための収集要素としても取り入れられているため、むしろボイスよりも重視すべきだったように思う。前後の文脈から意図は読み取れなくないが、感情の機微は伝わりにくいシーンが多々ありせっかくのプレイ体験を邪魔している。一方でボイスの翻訳は自然な表現に置き換えられているので、収録の際に修正したのだろうか、そのクオリティの落差もまたテキスト翻訳の粗さを際立たせてしまっていることが残念だ。

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