『Florence(フローレンス)』ゲームクリアレビュー【感想・評価】

4.0
フローレンスクリアレビューレビュー

 ゲームというものは大抵は敵を倒したり、ストーリーの終わりに向かって話を進めたり、何かしらの目的や達成感を求めてプレイヤーがコミットしていくものだ。だが『Florence(フローレンス)』は、まるでゆっくりと川を流れていくある女性のラブストーリーを、同じ流れに身を委ねながら追っていくような体験だった。川には乗り越えるべき滝も避けるべき岩も存在しないし、分岐点すらない。プレイヤーはゲームの始めてから終わるまでの約30分の間、彼女の物語をただ見守ることになる。

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『フローレンス』作品概要

 『Florence(フローレンス)』は、2018年にスマートフォン向けに発売したゲームだ(後にPC、ニンテンドースイッチに移植)。ジャンル分けが難しいが、ゲーム性にフォーカスするならパズルジャンルといえる。本作には言葉の説明はほとんど存在しない。フローレンスの生活を絵本のページを1枚ずつめくるように追いながら、要所に表れる説明のないパズルを解いていく。

 パズルはいずれも直感的に解法を理解できるし、乗り越える壁として存在していないことは明らかなほどに簡単なもので、詰まることはないだろう。今回プレイしたのはニンテンドースイッチ版で、スティックとボタンの操作が必要だったが、元のスマートフォン版であればより直感的に何をすればよいかが理解しやすいと思う。

フローレンスの心象とゲーム展開

パズルギミックの変化

 このゲームにおけるパズルはあくまで25歳のフローレンスとプレイヤーを重ね合わせるためのギミックでありプレイヤーに対する挑戦状ではない。若き社会人である彼女は毎日、目覚ましのアラームを止め起床、歯を磨き、通勤中はSNSに浸り、仕事を作業的にこなし、親のお節介を適当にいなして、出来合いの夕食をとり、眠りにつくまでのよくありそうな生活サイクルにパズル的要素が挿入されていく。

 パズルは前述のとおりクリアは容易で、必ずしもクリアを求められない場合もあるし、ある理由によりクリアが不可能な場合すらある。しかしパズルはこのゲームの進行を左右するものではなく、あくまでフローレンスの心象であり、例えば彼女がぎこちなさを感じる時はパズルが複雑になるし、リラックスしていたり順調に感じているときはシンプルになったり自動で解かれたりする。

ストーリーの表現

 序盤に突如挿入される子供時代を振り返りを見れば、彼女が子供の頃に持っていた生活の’いろどり’を大人になるにつれ失い、変化のない単調な人生を送っていることが明らかになる。そんな灰色の日常があるきっかけで文字通り色をまとっていく、というのが物語の始まりだ。

 ゲーム内容のほとんどはストーリーで占めていると言っても過言ではないので詳しくは語れないが、簡単に格好をつけて言うならば、本作は「かつてあった彩りを失った女性が、あるきっかけにより再び人生に色をとりもどしていく」というお話だ。物語の最中はわかりやすく彩度が変化し、終盤彼女が見つけるあるアイテムがわかりやすくその象徴となっている。

 パズルギミックも映像表現も彼女の心の機微とリンクするメタファーであることが明確だ。

ゲーム?小説?アート?

 正直なところ、ストーリーはあまりにシンプルでまっすぐだが、自分の人生を振り返れば、彼女と経験と重なる瞬間はたしかにあったし、魔王を倒したり、異世界に行ったり、真犯人が明らかになるといった展開よりも多くの人の心に普遍的に刺さる内容だろう。

 ギミックと映像からストーリーを見出す体験は既存のゲームよりも、アートアニメーションとかインスタレーション分野にも近い。つまり、普段ゲームをしない人ほど作品の文法に気付きやすいのではないだろうか。世のゲーム好きに手放しで勧められる一作とはいえないものの、普段小説を読まない僕が『Florence』を遊んで、短編小説ならちょっと読んでみようかなと思えたのだから、ゲームをしない人にだってこの作品は入口になりうる作品になれるはずだ。BGMとのマッチングも素晴らしいので、是非音量をONにしてプレイしてほしい。

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