ゲーム概要
『TOEM(トーエム)』はスウェーデンのSomething We Madeによるアドベンチャー。プレイヤーはおばあちゃんから(自身もかつて見たという)「トーエム」と呼ばれる現象を見に、キイルバーグの頂上を目指す。おばあちゃんから古いカメラを受け取った主人公はバスに乗って地元ホームランだから旅立つ。道中はカメラで公園に集まるハト、子供を流された風船、かくれんぼをする子供たち、壁面に落書きされたストリートアート、何でも小さなファインダーに収めていく。
たのしいところ
イラスト調の箱庭世界
画面は一見2Dクォータービューだが、実際はキャラクターや一部オブジェクトを除き3Dで構成されている。世界はモノクロ色調のイラスト風で表現されているが輪郭はくっきり描かれていて、見えづらさは感じない。ひとつのエリアは小さな箱庭のようにできており、回転や拡大縮小もできる。
見た目のシンプルさに反して、アニメーションは少し過剰なくらいにダイナミックに表現されていて(特にバスの移動アニメーションは必見)、いきいきと動くキャラクターと全体を通して長すぎないボリュームでクリアまで見飽きることはなかった。
1ステージ(地域)が複数のエリアで構成されていて、プレイヤーは各エリアを歩き回りながらクエストクリアに奔走することになる。屋根の上、橋の下、背景に至るまで多くの被写体が潜んでおり、後述のカメラモードでファインダーを覗くのが楽しい。
クエストクリアでスタンプ集め
各ステージで出会う人の多くは困り事(クエスト)を抱えている。彼らの困りごとを解決することでコミュニティカードにスタンプを押してもらえる。各エリアごとに決められたスタンプの数をゲットできれば、バスの乗車賃が無料になり次のエリアに進めるという寸法だ(お金を払って乗ることはできない)。
クリアに必要なスタンプ数のノルマはステージにより違うがたいてい6~8つ程度で多くなく、クエスト自体の難易度も低めに設定されている。極端に難しいものも簡単なものもない塩梅だが、受注可能になった時点ではクリアできないクエストもあるようなので、少し詰まったら後回しにするのもいいだろう。クエスト内容は謎解きというよりは、依頼者の言葉をヒントに目標物をステージ内で歩き回って探し出し、カメラに収めて収集していくものが多い。写真は256枚まで保存が可能でクリアには十分すぎる量だ。
依頼は、人探し、SNS用写真の撮影、ストリートグラフィティの収集、機会の修理、無くしたフリスビーの探索、演奏する曲のインスピレーション提供まで様々あるが、すべてカメラを利用する。クリア報酬は前述のスタンプだが、一部のクエストではカメラが固定できる「三脚」のような実用性のあるものから、変わった足音が出るもの、足が遅くなる、寒さの手ブレを防ぐもの、特定のエリアに入れる様になるものと様々ある。バリエーションはあまり多くないが、それぞれゲームプレイの幅が少し広がるようになっている程度で、ゲームクリアのために特定の装飾品が必須ということはなさそうだった。
いつでもカメラ、撮れ撮れ写真
ゲームプレイ最大の特徴はワンボタンで移行できる撮影モードだ。カメラ操作はシンプルに徹しており、露出調整のような他タイトルのカメラモードにある凝った設定はできないが、本作は始めから終わりまでファインダーを覗く機会が無数にあり、「カメラを素早く取り出し写真に収めまた移動」というサイクルを頻繁に繰り返すことになるので、これくらいシンプルな方が都合が良い。活用の機会は少なかったがフィルターやフレームもいくつか用意されているし、自撮りも可能だ。写真は256枚まで保存ができ、クリアには十分な量だ。
本作はコンバット要素は皆無で、各エリアに登場する人たちとの交流が中心となる。キャラクターは人以外にも、動物、幽霊、意志を持つ風船、無害なモンスターなど多彩で、悪人は存在しない(あやしいヤツはいる)。皆やさしく、どこか『MOTHER』シリーズや『UNDERTALE』のようなちょっと癖のあるテキストが楽しい。ボイスはないがキャラクターの発するテキスト音は『MOON』等のいわゆるラブデリック系ゲームのハナモゲラ語で、単なる可愛らしさからちょっと奇妙なテイストが混ざっている。
BGMが素敵
ゲーム中はポータブル音楽プレーヤーの「サウンドレディ」でBGMをいつでも切り替えることができる。BGM自体も収集要素のひとつで、ゲームを進めていけば新曲がどんどん追加されていく。どれも世界観に沿った主張の強くないアンビエントな癒やしやアコースティック系の穏やかなものが多いので、ベンチなどに腰掛けじっくり聴くのがおすすめだ。
気になったところ
ストーリーよりも体験重視?御用聞きマシンの主人公
ゲームの目的はキイルバーグまで「トーエム」を見に行くことで、途中通過する各エリアは目的地に至るまでの通過点だ。途中様々な人に出会い話をするもののシナリオの連続性はほとんどなく、住人同士の関係性などほとんど描写されない。クエストのほぼすべてが単発の頼み事に終始しており(一部複数のエリアに出現する人物はいる)、一貫したシナリオ、テーマなどは描かれないため、ゲームプレイを通して感情が動かされるようなシーンはなかったことが残念だ。
また、主人公には名前がなく選択肢を除いてセリフを発しない。主人公はイコールプレイヤーであり自分と重ねてほしいという意図があるかもしれないが、シナリオ上頼み事を聞くのはあくまで無料のバスに乗る(次のエリアに行く)ためであり、人々との交流を通して主人公が成長していく様子は見えない。
例えば会話の選択肢から自分と考えの近いものを選ぶなど、プレイヤーと主人公を重ねる仕掛けがあればこの試みはわかるが、ゲーム中選択肢は少なくどちらを選んだとしてもゲームに影響しないし、主人公に変化も見られない。自分と重ねるほどには同一視できないので、結局何を考えているかはわからない淡々と歩き回り頼み事を聞く何でも屋マシンの主人公と化している。
白黒ビジュアルはやっぱり寂しい?
本作の特徴的なモノクロ世界は、シナリオのある展開・演出を活かすためのもので決して意味がない訳ではないが、反対に言えばその演出のため以外にモノクロである必要性はないように感じた。モノクロであることがゲームに何かプラスに作用しているとは感じられず、豊かなカラー写真が撮れるなら、プレイのモチベーションも上がり撮影中心のゲームプレイともマッチしたように感じる。
『TOEM(トーエム)』に似たゲームのレビュー
『チコリー 色とりどりの物語』はモノクロ色調とアートワークの面で特に『トーエム』と似たゲームと言える。トーエムと違う点はプレイヤーが自由に画面に色を塗ることができる点と、『トーエム』と比べてゲームを通しメッセージ性が強いという点、非常に高い評価を得ている作品なので機械があったら是非プレイしてほしい。